(更新:2026年7月23日)
後継者がいない。赤字が続いている。体力的にもう限界かもしれない。そう感じて、廃業を考えているオーナーへ向けて書いています。私は、地方で廃業寸前だった創業140年の旅館を、自ら事業承継した当事者です。廃業を決める前に、何を検討できるのかを、正式に引き継いだ今だからこそ、正直にお伝えします。
(この記事に出てくる数字や出来事が、上のどの時点の話かが伝わるように、本文でも都度書いています。)
いま苦しい状況にいる方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。廃業を決める前に、検討できることは主に6つです。順番に並べています。
ここから先は、私が一つの旅館と向き合った、実際の記録です。うまくいった話だけでなく、正直に苦労した部分も、まだ終わっていない部分も書きます。
仕組みやノウハウの話をする前に、動機の話をさせてください。ここが抜けると、ただの成功自慢になってしまいます。
私は、北海道の小さな町ですごした時間があります。地方には本来の力や魅力があるのに、それが正しく世に届いていない。都心のコンサルティングによって地方が消費されていく動きや、「田舎だから無理」と可能性を摘む空気に、ずっと違和感を持ってきました。自分が好きな町や村が、目の前でどんどん衰退していく様子を見て、怒りに近い感情すら覚えたこともあります。
その違和感と向き合うために、マーケティング支援の会社をやってきました。ですが、あるとき気づきました。支援する側に立ち続けるだけでは、証明できないことがあります。「地方でも勝てます」と言葉で言うのは簡単です。自分でリスクを背負って、自分の手でやってみせないと、その言葉は本物になりません。
だから、廃業寸前だった旅館を、自分で引き継ぎました。うまくいった数字だけを並べて自慢するために、この記事を書いているわけではありません。同じように「廃業か、続けるか」の分かれ道に立っている方に、当事者として実感を渡したいから書いています。
日本各地の旅館では、後継者不在や体力的な限界を理由に、廃業を選ぶケースが増えています。これは、一つの宿だけの問題ではなく、業界全体が抱える課題です。私が実際に見聞きした範囲でも、廃業を考え始めるきっかけには、いくつか共通するサインがあります。
このうち後継者不在については、「後継者がいない旅館は、継ぐ人をどう探せばいいか」で、血縁も地縁もない外から継いだ側の視点でまとめています。
私が向き合ったこの旅館も、こうしたサインが重なった状態にありました。地方の温泉地にある、創業140年、全9室の旅館です。私が深く関わり始めた時点で、この旅館は廃業寸前の状態でした。
ここで、経営の詳しい経緯には触れません。踏み込みすぎることは、誠実ではないと考えているからです。お伝えしたいのは、そこからどう考え、何をしたかという部分です。
最初にやったことは、感情で判断する前に、現状を数字で棚卸しすることでした。予約の状況、直近の売上、固定費の内訳を並べて見る。特別なことではありません。ただ、この棚卸しをしないまま「もう無理だ」と結論を出してしまう旅館は、実は少なくないと感じています。
その村は、人口およそ6,000人です。国立公園の中にあり、古くからの温泉地を抱えています。決して大きな観光地ではありません。私は、こうした「辺境」と呼ばれる場所でも、宿は再生できると考えました。
廃業と事業承継、どちらを選ぶべきかに、絶対の正解はありません。ただ、判断の材料になる基準は、いくつかに整理できます。私が実際に見た基準を挙げます。
私の場合、建物と温泉、地域とのつながりに価値を感じました。そして、引き継ぐ意思と体力が私の側にありました。だからこそ、廃業ではなく事業承継という選択をしました。
正直に言うと、この5つの基準のうち、最後まで一番迷ったのは「経営者自身の体力・意欲」でした。建物や借入の状況は、時間をかければ数字として見えてきます。ですが、自分にその覚悟があるかどうかは、数字にできません。何度も自問しました。
残り4つを、どう数字にしたかにも触れておきます。建物・設備は、修繕が必要な箇所を専門業者に見積もってもらえば、金額として出ます。借入・保証は、金融機関に残高と返済条件を確認すれば分かります。従業員・地域との関係は数字にはなりませんが、実際に面談して意向を確認できます。引き継ぐ意思のある個人・法人がいるかどうかは、まず相談してみないと分かりません。数字にできる項目と、数字にできない項目を分けて考えると、判断がしやすくなります。
廃業寸前の旅館に対して、私が検討したのは「事業承継」という選択肢でした。買い取って終わり、ではありません。自社で運営を引き継ぎ、経営そのものを担うという判断です。
正直に言うと、簡単な決断ではありませんでした。旅館業は、広告やWebの仕事とは違います。建物があり、お湯があり、地域との関わりがあり、簡単には後戻りできません。リスクを引き受ける覚悟が要ります。
私はOne Ismという会社をやっています。地方の再興とAIマーケティングの支援を仕事にしてきました。ただ、支援する側に立ち続けるだけでは、証明できないことがあると考えました。「地方から、日本を再興する」。それが、私たちのミッションです。
辺境と呼ばれる場所でも、宿は勝てる。それを、まず自分の手で証明する。それが、この旅館を事業承継した理由です。他の宿へこの型を広げていくためにも、自分が最初の実例になる必要がありました。
もう一つ、正直に書いておきたいことがあります。何年も無報酬に近い形で現場に関わり続け、資金を立て替えたことも一度や二度ではありません。それでも関わり続けたのは、「少しでも関わった以上、途中で見捨てるのは自分の美学に反する」という、単純だけれど譲れない一線があったからです。理屈だけでなく、情でも動いていました。
「事業承継」と一言で言っても、やることは多岐にわたります。私が実際にたどった順番を、なるべく具体的にお伝えします。
私には、4つの柱からなるビジョンがあります。①自社で旅館を運営する、②その型を他の宿へ広げる、③地方の若者に挑戦の場をつくる、④宿から地域全体へ広げる、という順番です。この旅館の事業承継は、その最初の一歩でした。
ここで、時系列を正直に整理させてください。この旅館の経営を、契約のうえで正式に引き継いだのは、今月のことです。
ですが、それより前の去年、外部からのサポートという立場で、現場にほぼ入り込んで動かしていた時期がありました。この記事でこれから書く「前年同月比240%」という実績は、正式な承継の前、その外部サポート期に、私が現場で作った数字です。
「今月継いだ」と言えるようになったのは、その頃からずっと現場に関わり続けてきた結果です。まだ契約の関係で詳しい情報は出せない部分もありますが、時が来たら、あらためてお伝えします。
なぜ、こんな細かい時系列をわざわざ書くのか。理由は単純です。「事業承継した途端に数字が伸びた」という書き方をすると、承継という手続きそのものに魔法があるように読めてしまいます。実際はそうではありません。数字を動かしたのは、契約の形式ではなく、現場に深く入り込んで、数字を毎週見る仕組みを作り、集客の柱を作り直した、という地道な積み重ねです。承継はその結果を、あとから正式な形にしたものだと考えています。
「去年、月商1,100万円まで伸びていたのに、なぜ今は営業を休んでいるのか」と疑問に思う方もいると思います。契約の関係で詳しい事情はまだ書けませんが、正式な承継の手続きと、次の営業に向けた準備を並行して進めている期間だとご理解ください。準備が整い次第、あらためてお伝えします。
去年、外部サポートという立場で深く関わっていた時期にやったことは、特別な奇策ではありません。広告とSNSで自社集客の柱を作り、公式LINEでリピーターとのつながりを残し、数字が見える状態を整えました。地道な積み重ねです。
関わり始めた直後の状態と、積み重ねた後の状態を比べると、変化がはっきり分かります。関わり始めた頃は、稼働率が低迷し、広告費をかけても反応が薄い時期が続きました。そこから、集客の柱を複数持つ体制に切り替え、数字を毎週見る運用に変えたところ、次の結果につながりました。
広告費は月額30万円で、ROAS(広告費に対して、何倍の売上が返ってきたかを示す指標)は最高1,200%超を記録しました。かけた広告費の12倍以上の売上が返ってきた、ということです。廃業寸前だった宿でも、正しい順番で手を打てば、数字は動きます。これは、私にとって希望でもあります。
この「型」は、この旅館だけのものではありません。私が同じ考え方で関わった他の事業でも、近い結果が出ています。
ここでもう一度、正直に書いておきます。旅館自体の営業再開は、まだ先で、9月か10月を予定しています。ここまで書いた240%という数字は、正式な事業承継の前、外部サポートという立場で作った実績です。承継後、本番でお客様を迎えてからの実績は、まだ一度も計測していません。景気のいい数字を先取りして書くより、「まだ計測前です。本番で数字が取れたら、また書きます」と正直に言う方を選びます。
くわしい取り組みの中身は、関連記事「旅館の集客方法まとめ」に書いています。この記事では、集客の手順ではなく、廃業か承継かという入口の話に絞ります。
私が実際に経験した、あるいは近くで見てきた、事業承継でつまずきやすいポイントを3つ共有します。合わせて、私が取った対処法も書きます。
ここまで、判断基準や進め方という「型」の話をしてきました。ですが、事業承継の本質は、型よりもっと手前にあると思っています。それは、リスクを引き受ける人間が、実在するかどうかです。
正直に書きます。旅館業に関わり続けた時間の中で、無報酬に近い形で動いた時期も、自分の資金を立て替えた時期もありました。うまくいく保証なんて、どこにもありませんでした。それでも関わり続けたのは、「少しでも関わった事業を、途中で投げ出したくない」という、自分でも説明しづらい一線があったからです。
「なぜそこまでやるんですか」と聞かれることがあります。答えは、そんなに格好いいものではありません。地方の可能性を信じている、という使命感は確かにあります。でも同じくらい、単純な情もあります。理屈だけでは、人はここまで動けないと思っています。
事業承継を考えている方に伝えたいのは、「型を真似れば誰でもできる」という話ではない、ということです。型は再現できます。ですが、リスクを負う覚悟だけは、誰かが肩代わりすることはできません。そこだけは、自分自身に問い続けるしかない部分です。
ここまで、うまくいった話を中心に書きました。ただ、正直に言うと、関わり始めてすぐに順調だったわけではありません。
深く関わり始めたからといって、すぐに売上が上向くわけではありませんでした。何から手をつけるべきか整理するだけでも、時間がかかりました。今日いいと思ってやったことが、翌週には違う課題に変わっている。そんな日々が続きました。
それでも、数字を毎週見る習慣だけは崩しませんでした。動きが見えない時期でも、見える化を続けたことが、後の240%につながったと感じています。
廃業は、決して逃げではありません。長く続けてきた宿を、次の世代に負担を残さない形で終える。それも、誠実な選択の一つです。
ただ、廃業を決める前に、事業承継という選択肢を一度でも検討したかどうかは、後になって大きな違いになると思います。私は、検討した先に、宿を残すことができました。
もし、いま同じような状況にいるなら、どちらを選ぶにしても、一人で抱え込まないでほしいと思います。私は、廃業寸前の旅館を実際に引き継いだ側として、お話しできることがあります。うまくいったことも、まだ計測前で分からないことも、正直にお伝えします。
はい、大丈夫です。承継するかどうかを決めていない段階のご相談も承っています。私自身、承継の前に長い時間をかけて検討しました。まずは現状をお聞かせください。
感情で決める前に、まず現状を数字で棚卸しすることをおすすめします。そのうえで、事業承継という選択肢があるかどうかを確認します。廃業と承継は、両方とも重い決断です。比べたうえで選ぶ価値があります。
後継者不在は、多くの旅館が抱える課題です。親族に限らず、外部への事業承継という選択肢もあります。私も、そうした形でこの旅館を引き継ぎました。まずは可能性があるかどうかを一緒に確認します。
はい、相談いただけます。赤字であること自体は、珍しいことではありません。大切なのは、赤字の理由が何かです。理由によっては、立て直せる場合もあります。まずは数字を見せてください。
いいえ、強制はしません。相談したうえで、廃業を選ばれても構いません。私がお伝えできるのは、選択肢と、当事者としての実感だけです。決めるのは、いつもオーナーご自身です。
ケースによって差がありますが、現状の棚卸しから、集客の土台を作り直すところまで含めると、数ヶ月単位で考えていただくのが実感に近いです。契約の手続きだけで済む話ではなく、承継後の運用まで含めて「承継」だと考えています。
一概には言えません。廃業には廃業の費用(原状回復や清算の手続きなど)がかかりますし、承継には承継の費用(引き継ぎや集客の立て直し)がかかります。金額の比較だけでなく、どちらが後悔の少ない選択かも合わせて考える価値があります。
経営を正式に引き継いだのは今月ですが、旅館自体の営業再開は9月か10月を予定しています。この記事に書いた前年同月比240%という実績は、正式な承継の前、外部からのサポートという立場で現場に深く関わっていた、去年の実績です。
廃業を考える前の事業承継のご相談、現状の棚卸しのご相談を承っています。私自身が事業承継の当事者として、実感をもとにお話しします。支援内容のくわしい説明は「旅館・宿の集客支援」のページをご覧ください。
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