(更新:2026年7月23日)
創業140年、廃業寸前だった旅館の経営を、30歳の私が引き継ぎました。AI導入支援を仕事にしているからこそ、自分の現場で何が動いていて、何がまだ動いていないかを隠す理由はありません。Slackに常駐する「AI女将」から、スタッフの「マイページ」、管理者の「帳場」、検証を終えた予約連携、構想段階の電話対応まで、順番にお見せします。
仕組みの話をする前に、動機の話をさせてください。ここが抜けると、ただの技術自慢になってしまいます。
私は、地方には本来の力や魅力があるのに、それが正しく世に届いていないことに、ずっと違和感を持ってきました。都心のコンサルティングによって地方が消費されていく動きや、「田舎だから無理」と可能性を摘む空気にも、同じ違和感がありました。
その違和感と向き合うために、マーケティング支援の会社をやってきました。ですが、あるとき気づきました。支援する側に立ち続けるだけでは、証明できないことがあります。「地方でも勝てます」と言葉で言うのは簡単です。自分でリスクを背負って、自分の手でやってみせないと、その言葉は本物になりません。
だから、創業140年、廃業寸前だった旅館を、30歳の私が自分で引き継ぎました。経営を正式に引き継いだのは、今月のことです。引き継ぐ前の去年は、外部からのサポートという立場で現場にほぼ入り込んで動かしていて、その時期に廃業寸前だった売上を、前年同月比240%まで押し上げた実績があります。
ここから書くAIの仕組みは、その証明のための実践の一部です。
うちのAI活用は、こう分かれています。正直、ここが一番混ざりやすいところなので、先に具体名で仕分けます。
旅館自体の営業再開は、まだ先で、9月か10月を予定しています。ですから②は、まだ本物のお客様の前では一度も動いていません。これから「AI女将の1日」のような書き方が出てきますが、それは②の、再開後に稼働する設計の話です。
逆に、Slackでの日々のやり取りやマイページ・帳場の画面そのものは①として、いまも社員同士で実際に毎日動いています。たとえば「今日は何時に清掃点検をするか」「設備の試運転はどこまで終えたか」といった、再開に向けた準備業務のやり取りです。以降、「現場で」「毎日」と書く場面も、その都度どちらの意味かが伝わるように書きます。
「AIで全部自動化しています」と言えたら簡単ですが、それは正確ではありません。動いているものから順番に、作り方から考え方まで書きます。
現場の連絡は、すべてSlack(職場向けのチャットアプリ)です。そこに「AI女将」と呼んでいる自動の仕組みを常駐させています。「システム」と呼ぶより、チームの一員のように扱えると考え、この名前をつけました。
先に整理します。AI女将の仕事の大半は、決まった時刻に決まった内容を送るだけの「ただの自動化」です。AIが実際に判断するのは、「まだ答えを知らない質問に、その場で考えて答える」ときだけに限っています。
(これは再開後、実際に稼働する設計です。いまは社員同士の準備タスクで、同じ型を使っています。)
(この時刻表は、再開後にお客様相手で動く②の設計です。いまは同じ枠組みを使い、社員同士の準備連絡として①で毎日動かしています。上のバッジ「②再開後に稼働」は、まだ実績が無い=未計測という意味です。)
見てのとおり、派手な「AIらしいこと」はほとんどありません。毎日繰り返す連絡を、決まった時刻に、決まった形で、忘れずにおこなう。地味な仕組みですが、いまの準備期間だけでも、現場を一番助けてくれています。連絡の抜け漏れは、人間関係のあつれきの一番の火種になるからです。
朝の配信は、最初は全員向けに1通で送っていましたが、いまは「全体サマリ1通と、スタッフ別のカード」に分けています。自分のカードには、自分のその日の仕事だけが書いてあります。手順のメモはカードのスレッドにぶら下がり、完了報告や写真も、自分のカードのスレッドに返します。
こうすると、チャンネルの本体が1日中流れ続けることがなくなります。カードがそのまま「その人のその日の記録」になり、あとから見返すのも簡単です。朝のサマリの冒頭には、「昨夜の出来事」を必ず載せています。夜勤の申し送りが、日勤に伝わらずに消えてしまう。どの現場にもある事故ですが、仕組みの側で拾うようにしました。
①現在稼働中
AI女将のなかで、一番気に入っているのがこの仕組みです。使っている道具自体は特別なものではなく、Slackと、質問が来たときだけ動くAIエージェント(Claude Codeという開発ツールの中で動いています)の組み合わせです。新しい業務システムを契約したわけではありません。
朝夕の定時配信やキーワード監視は、決まった手順どおりに動くだけの自動化です。AIらしい判断が必要になるのは、「知らない質問に、その場で考えて答える」ときだけです。流れは、次のとおりです。
大事なのは、誰かが「AIに教える」という特別な作業をしなくていい、という点です。管理画面を開いてデータを登録する、というような手間は一切ありません。ラベルは、間違いの拡散を完全に防ぐ魔法ではありません。読んだ人が「これは確定情報でなく、AIの推測だ」とその場で見分けられるようにするための表示です。だからこそ、責任者がスレッドに目を通して訂正する、という人の確認が今も必須だと考えています。現場で毎日起きている「質問と答え」が、そのまま会社の教科書になっていきます。
清掃手順・チェックインの流れ・設備の使い方といったマニュアル類は、先にまとめて覚えさせておきました。人が入れ替わっても、宿の知識は仕組みの側に残り続けます。仕組みは、クラウド上のデータベースと、Slackの通知の仕組みを組み合わせて作っています。
AIは間違えます。これは前提です。大事なのは、間違いを出さないことより、間違いが流れたままにならないことだと考えました。
AIが推論で答えた回答には、「AIの見立て」というラベルが必ず付きます。読んだ人が、確定情報とAIの推測を区別できるようにするためです。もし間違っていたら、責任者がそのスレッドに「訂正 正しい内容」と1行返信するだけです。覚えている内容が上書きされ、同じスレッドに訂正版が掲示されます。止めてから出すのではなく、出してから直す。この方が、現場のスピードに合っていました。
①現在稼働中
現場の管理で一番つらいのは、1つの変更を複数の場所に伝え直すことです。本人に伝えて、現場に伝えて、台帳を直して。この3往復が、管理者を疲れさせます。
そこでうちは、管理者の操作を「Slackに1行」に集めました。たとえばスタッフから「体調を崩したので休みます」と連絡が来たら、管理者は「欠勤 ○○」と1行書くだけです。すると自動で、その人の今日のカードに「本日お休み」が掲示され、現場チャンネルに1行の告知が流れ、残っていた仕事は整理され、未消化の仕事の一覧が管理者に返ってきます。1行で、さきほどの3往復が全部終わります。
同じ要領で、人数変更・部屋変更・急な人員追加・シフトの追加や削除も、すべて1行です。当日スポットの方が来ることになったら「カード発行 ○○さん 清掃」で、その人の段取りカードが即席で生まれます。
実際のスタッフを招待する前に、年齢も役割も違う架空のスタッフを7人設定し、仮想の1か月を通しでシミュレーションしました。急な欠勤がある日、当日キャンセルが出る日、月末の締めの日を想定しています。
すると、平常な日は問題がないのに、例外の日に仕組みが手を離すことが分かりました。この方法で見つけた穴は15個です。欠勤の1行コマンドも、当日のカード発行も、実はこのテストから生まれた機能です。仕組みは平常時のために作りがちですが、現場が本当に助けてほしいのは例外の日です。ここはAI活用に限らず、業務改善全般でいえることだと考えています。
正直に書きます。これらの仕組みが実際にどれくらい時間を減らすか、AI女将の回答がどれくらいの精度で当たっているか、月々の費用が具体的にいくらになるか、といった数字は、まだ出せません。理由は単純で、本番のお客様相手では、まだ動かしていないからです。ここで景気のいい数字を出すより、「まだ計測前です。本番で数字を取ってから、あらためて記事にします」と正直に書く方を選びます。
再開したら、次の3つを実際に測るつもりです。「AIの見立てのうち、訂正が入った割合」「配信を読んでから対応が始まるまでの時間」「月あたりの実費用」。数字が取れ次第、この記事に追記します。
Slackが「会話」の道具だとすれば、マイページは「自分の仕事」の道具です。スタッフはスマホで、自分専用のページを開きます。その日にやることが並んでいて、終わったらタップするだけです。
「自分で足す」は、決められた仕事以外に、自分で気づいてやったことを足せる欄です。決められたことだけをやる場所にしたくありませんでした。「できればお願いリスト」には、支配人からの「余裕があればこれも」という仕事が並んでいて、早い者勝ちで引き受けられます。
登録も簡単にしました。宿の合言葉を聞き、名前とメールを入れると、その場ですぐに使えます。承認を待つ必要はありません。管理者が先に、明日から来るスタッフの段取りを作っておけば、本人が同じ名前で登録した瞬間に、自分の仕事が届いている状態になります。この「合言葉だけで即使える」設計は、顔の見える小さな宿だからこそ成立していると考えています。
日報もマイページから出せます。書くのは「今日やったこと」「お客様の様子・いただいた声」「気づき・困りごと」「明日の人への申し送り」の4つと、「今日のありがとう」の1つです。「お客様の様子・いただいた声」の欄は、再開後にお客様を迎えてから実際に埋まっていく欄で、いまは再開準備で気づいたことのメモに使っています。
「今日のありがとう」の欄からは、仲間に感謝カードを送れます。ここで1つ、こだわったルールがあります。感謝カードにAIは一切手を入れません。代筆も、要約も、体裁を整えることもしません。書いた言葉をそのまま届ける役に徹しています。
ポイントも設計しています。タスク完了で10、花丸で30、日報で5、感謝を貰うと5、贈ると3が貯まり、貯まったポイントはまかないやサウナ利用などと交換できます。1人では届かない景品には、複数人で少しずつ出し合う「合算」の仕組みも用意しました。ランキングは、トップ3しか表示しません。数字で全員を並べると、事情があって働ける日が少ない人の居場所がなくなるからです。できる仕事が増えると次の段階が開くレベル制もあり、シフトの確認や希望提出も、この画面で完結します。
管理する側は、「帳場」というダッシュボードで宿全体を見ています。旅館の言葉で、フロントの奥の事務場のことです。
この画面を作るときに決めたことがあります。「私たちは管理者であって、監視者ではない」という考え方です。ポイントもランキングも、査定には使いません。褒める口実として使います。数字が悪い日は、責める材料ではなく、声をかける合図として扱います。
これは、地方の現場ほど大事な考え方だと思っています。人手が限られた場所で長く働いてもらうには、数字で管理するより先に、一人ひとりを大事にする姿勢が要ります。AIに仕組みを任せているのは、人を減らすためではなく、この「大事にする」部分に人が集中できるようにするためです。
正直に書きます。いま使っている予約システムには、外部連携の窓口が無く、AIの仕組みとつなぎたくてもつなげません。
ここは、まだ構想段階の話です。かかってきた電話に、AIが日本語の音声でその場で応対する技術は、すでに存在しています。うちでも、いつか実現したいと考えています。
ただ、音声は文字と違って、やり直しがききません。文字の世界で「知らないことは知らないと言う」を鍛えてから、最後に電話に取り組もうと考えています。実現したときは、うまくいったことも失敗したことも、あらためて記事にします。
最後にもう一度、任せていないことを書いておきます。
AIが得意なのは、繰り返しの作業と、答えがすでに決まっていることです。人にしかできないのは、判断と、心を込めることです。AIを入れる目的は、人を減らすことではなく、人が人にしかできない仕事に集中できるようにすることだと考えています。
「うちでもやりたい」という方に向けて、いまゼロから始めるならの順番を書きます。
逆に、いきなり「AIツールの契約」から入ると、多くの場合うまくいきません。順番が逆なのであって、ツールが悪いわけではないと考えています。
いいえ。毎日の段取り配信・簡単な質問への回答・タスク管理はAIと自動化の仕組みに任せていますが、感謝の言葉の代筆や、表彰・評価の最終決定、難しいお客様対応はAIにはさせないと決めています。判断が必要な場面は、必ず人が行います。
いいえ。土台は無料枠のクラウドサービスで動いていて、AIモデルを呼ぶのは「まだ答えを知らない質問」が来た時だけです。一度答えた内容は自動で覚えるので、同じ質問への対応はどんどん無料の仕組みへ移っていきます。使うほど、コストのかかる部分の出番が減っていく設計です。
まだです。いま使っている予約システムには外部連携の窓口が無く、AIの仕組みと直接つなげません。Beds24という別のシステムであれば連携できることを、技術仕様を読み込んで確認した段階です。契約はこれからの判断になります。
いいえ、まだ構想の段階です。技術的にできることは調べていますが、実装はこれからです。導入するときは、簡単な問い合わせ対応から始め、複雑な相談は人に転送する設計にする予定です。
はい。私たちがご提供しているAI導入支援は、この自社での実践がもとになっています。Slack等で日々の連絡・報告をやり取りしている現場であれば、業種を問わず応用できる部分が多いです。
ノウハウを隠して差別化する道もあると思います。ですが私は、地方の現場で同じように取り組んでいる人に、そのまま渡したいと考えています。この仕組みで、どこかの宿が、どこかの町の会社がよくなるなら、それでよいのです。地方全体がよくなることが、私たちの目指している場所だからです。
座右の銘があります。『孟子』にある「至誠にして動かざる者は、未だこれあらざるなり」。誠を尽くして動かなかった人は、いまだかつていない、という意味です。AIの設計も、スタッフとの向き合い方も、この記事も、根っこは全部これです。誠を尽くして、正直に書く。盛らない。それで動いてくれる人がいれば、これほどうれしいことはありません。
私たちのミッションは、「地方から、日本を再興する」ことです。1軒の宿の再生は、その一歩目にすぎません。
「何から始めればいいか分からない」という段階からご相談いただけます。私たちが自社の現場で実際に運用している型をもとに、御社の業務に置き換えてお話しします。支援内容のくわしい説明は「AI導入・業務効率化支援」のページをご覧ください。
ご相談は無料です。1営業日以内にご返信します。無理な営業はしません。